高度技術信託基金

高度技術信託基金(High-Level Technology Fund:HLT Fund)は、アジア・太平洋地域における案件形成と実施において、高度な技術の活用を促進するためにアジア開発銀行に設立されたマルチ・ドナー信託基金です。日本政府を最初のドナーとして2017年5月にその設立が発表されました。

概要

高度技術信託基金は、ADBが融資する政府向けおよび民間向けプロジェクトのプロジェクト・サイクル全体を通して、高度な技術(high-level technology)の活用を促進するための無償資金を提供しています。2020年5月現在、日本政府から合計5500万ドルの拠出を受けています。

導入が支援される技術やソリューションは、支援対象国において新しく、スケールアップが必要なものを想定しています。また、プロジェクトのライフサイクル・コストや気候変動への適応等を重視し、再生可能エネルギーや蓄電技術、高効率な汚水処理や交通管理技術、モバイルヘルスやリモートセンシング技術の導入など、様々な先進的技術の活用の促進を目的としています

支援対象・案件

2020年5月現在 、高度技術信託基金からADBの各種案件に対し、既に総額約4,478万ドルの支出が承認されています。そのうち、ソブリン貸付案件に対して無償資金として追加で提供されるものが12件(約2115万ドル)、技術協力(Technical Assistance)が23件(約2141万ドル)、そして21件(約222万ドル)は専門家の雇用などに活用されます。

高度技術信託基金ではエネルギー、交通、都市、水、およびヘルスセクターの5つを優先分野としていますが、その他の分野への支援も行っています。対象とする技術の特性や優先分野の詳細はこちら を ご参照ください。

また、承認された案件の実施地域や技術も多岐にわたり、2017年から2019年の間に基金の提供が承認された案件のセクターおよび地域別(ADB担当部署別)分布は以下の図の通りです。

 

左図:セクター別承認額累計 (2017年―2019年末、単位:千ドル)

右図:地域別(ADB担当部署別)承認額累計 (2017年―2019年末、単位:千ドル)

(CWRD: 中央・西アジア地域局、EARD: 東アジア地域局、PARD: 太平洋地域局、SARD: 南アジア地域局、SERD: 東南アジア地域局)

事例紹介

モルディブの廃棄物処分場の高度化案件(Waste to Energy 技術の適応含む)では、入札の結果、日本のコンサルタントと東京都による調査提案と能力向上に係る取り組みが同基金の支援により実施されました。今後、モルディブ政府へのソブリン貸付案件において新しい廃棄物処分施設等が建設・導入される予定です。また、同国では、サプライチェーンの透明性の確保のためにブロックチェーン技術を活用した案件も実施されています。 さらにパキスタンでは初となる、風力発電所横に設置する大型蓄電池システム (Battery Energy Storage System) の導入にも高度技術信託基金が活用されています。

今後、モンゴルでは国道の正面衝突事故防止のためのワイヤーロープ型中央分離帯の導入に同基金が活用される予定です。その他、バングラデッシュの鉄道案件では、象との衝突事故を防ぐためのセンサーが導入されます。また、トンガでは、健康に関する女性や子供への適切な情報提供等を実現するためのデジタルプラットフォーム導入などにも基金の活用が予定されています。

高度技術信託基金が支援する技術は多岐にわたり、世界最先端である必要はないものの、最適な技術でありながら未だ導入が進んでいないソリューションの活用支援を推進しています。同基金の活用が承認された案件はこちらをご参照ください。

民間セクターとの協力

一般的にADBの信託基金は、案件形成や参画に関心のある民間企業や組織が直接申請できる資金ではないものの、信託基金を活用してADBと開発途上加盟国の間で形成・実施される案件に求められる人材や物資の調達には民間セクターの参加が求められます。

高度技術信託基金については、その資金の活用が決まった案件は全て特設ウェブサイトに掲載されており、調達情報を含む関連する案件情報サイトへのリンクも確認していただくことができます。こちらでも、多くの日本企業・組織・個人の参加を期待しています。一方で、高度技術信託基金を活用し、民間の皆様にとっても直接の協業機会となる、ADBとしては初めての試みにも挑戦しています。それが Technology Innovation Challenge です。

Technology Innovation Challenge(提案型事業)

Technology Innovation Challenge (TIC) とは、ADBが指定した開発途上加盟国が抱える開発課題に対して、解決策となる技術を保有する企業や組織 (Technology Providers)にパイロット事業を提案していただくというものです。公募および選考の末、優れた提案には一件最大約5000万円が提供されます。

提案していただく技術は、世界のどこかでその効果が既に実証されたものであり、かつ、応募者が選んだ地域や国、対象分野において、その導入が初めてとなるものを想定しています。また、応募者は、この資金を使って解決策の有効性が証明され、その後ADBの融資案件に繋がった場合などは、下流のビジネスチャンスに参画することが可能です。

第一回TICではエネルギー分野を対象とし、2019年6月に対象となる3つの開発課題を発表、10月にはその公募が開始されました。現在、引き続き選考が進んでいます。今後、他の分野での公募も実施予定であり、2020年中には次のTIC のテーマを発表する予定です。

開発途上加盟国の課題解決のため、先進的なソリューションを保有する企業・組織の皆様が私たちと共に取り組んで頂けるよう、日本からも多くの応募を期待しています。TICに関する詳細はこちらをご覧ください。

 

お問い合わせ先:高度技術信託基金チーム [email protected]